otonari
三好夫人 お隣の奥さんによ。 三好大尉 馬鹿、馬鹿、笑はれるぞ。 三好夫人 だつて、ぢや、誰がどうしたの。 三好大尉 おれに訊いたつて知るかい。 三好夫人 それ御覧なさい。(眼の色がだんだん変つて来る)わかつた。さうだ、さうに違ひない。 三好大尉 何がわかつたんだい。 三好夫人 いいの、もういいの。だけど大胆なことをするわね。(突然立ち上り、奥にはひる)ねえや、ねえや……。 三好大尉 坊やを呼びに行つたんだらう。 三好夫人 わかつてますよ。 三好大尉 (いが栗頭をガリガリと掻く) 三好夫人の声 どうしたの……何時までも……。 此の時、大尉の一子、忠坊、顔を泥だらけにして現れる。 三好大尉 こら、忠坊、ここへ来い。貴様、悪戯をしとつたな。なんだ、その顔は……。(子供を膝の上に乗せ、写真を指さし)これ、誰だか知つとるか。 女中の声 (此の時、突然、大きく)わたくし、知りましねえ。 長い沈黙。 女中の声 (また、高く)知りましねえもな、知りましねえ。 三好大尉 おい。風呂はまだか。
大判プリント 格安