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おせい さあ、こつちへ、火のそばへいらつしやい。お加減が悪いんですつてね。 女 (口の中にて)いゝえ、もう、お蔭さまですつかり……(図々しい媚びのある眼附) 廉太 (少しきまりが悪いのと、少し得意なのとが、半分半分の笑ひ方をする)おちかお茶ある? おちか (突慳貪に)お茶なんかないわよ。 京作 さうだ、火も起さなくつちや。(自ら台所に炭取を取りに行く) おせい (起ち上り)あたしがしますよ。(台所に行かうとして、京作の後を追ふが、もう遅い)あらまあ、すみません。(炭取を受け取つて、火鉢につぐ)お腹でもお痛かつたんですか。 女 (廉太の方を見て、にらむやうな眼附きをした後で)ええ、いゝえ……。 廉太 (引取つて)この人はね、悪い奴につかまつて、ひどい目に遭つたんだよ。(間)僕が、あの森の中へはいつて行つたら、此の人が倒れてるだらう。びつくりして起して見たら、此の人なのさ。それから、僕……。 おせい 何時のこと、それや。 廉太 (何気なく)昨日の晩さ。 文六 (黙つて、廉太の顔を見る) おちか (おせいに)あら、駄目よ、そんなに吹いたつて。(時々、廉太の方に反感を含んだ視線を投げかける) 廉太 (弁解らしく)この人は、歩けなかつたんだよ、昨日は……。しばらく家へ置いてあげてもいゝだらう。行く処がないんだつていふから……。 おせい お宅はどちらです。 女 ずつと田舎なんでございます……。 おせい それで、東京へは……? 女 店へ勤めてゐたんでございますけれど、もうそこは出ましたもんですから……。 廉太 ほら、終点の前のうち洋食屋ね……。 おせい 御覧の通り、家も手狭でしてね。置いてあげたいのは、山々ですけれど……。 廉太 おツ母さん。
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