betudan
亮太郎 別段困りもしないさ。こつちが向うをわかつてやるほど、向うぢや、こつちがわからずにゐるだけさ。弟なんていふものは、そんなもんだよ。 あや子 あたしから、よくお話してみても駄目かしら……。 亮太郎 話すつて、何を話すんだい。 あや子 あなたの気持なり何なり……。 亮太郎 僕の気持を話したつてしやうがないさ。あいつに、どうして貰はうといふわけぢやないんだから……。 あや子 でも、誤解があつちや……。 亮太郎 面白くないといふのかい。しかし、それもね、時機の問題だと思ふんだ。今は何と言つたつて駄目だよ。僕が、家の金を使つて、都会に出て、学問をして、そして郷里のことは顧みないで、下らない仕事をしてゐるといふのが、あいつの気に喰はないんだ。そいぢや、自分は、どれだけ郷里のために尽し、どれだけ有意義な仕事をしてゐるかといふと……(首をふり)いけない、どうも、頭が悪い。しかし、あいつはなんと言つたつて、子供ぢやないよ。なるほど、油断のならないところがある。さつき言つたやうなことばかりでなく、僕自身が、なんだか、あいつに脅かされてゐるやうな気がしてしやうがない。 あや子 それはあなたのひがみよ。 亮太郎 それが君にどうしてわかる。――いや、僕の言ふのはね、あいつに、何か企みがあるといふやうな、そんなことをぢやないんだ。もつと運命的な、どうすることも出来ない二人の関係によることらしい。はつきり言ひ表すことはできないがね。(間)以前はそんなことはなかつたんだよ、二人とも小さい時はね、どつちかつて言へば仲のいい兄弟だつた。(空を見上げ)よくここで遊んだもんだ、この栗の木の下で……。
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