yesterday
昨日自分は、村上海軍大尉と共に、彼女の家の庭園で、彼女の帰宅するのを待つてゐた。その時に、自分はふと、大尉がその軍服の腕を捲り上げて、腕時計を出して見てゐるのに気が附いた。よく見ると、その時計は、自分の時計に酷似してゐるのである。自分はそれとなく、一見を願つた。自分が、その時計を、大尉の頑丈な手首から、取り外した時の駭きは、何んなであつたらう。若し、大尉が其処に居合せなかつたら、自分は思はず叫声を挙げたに違ない。自分が、それを持つてゐる手は思はず、顫へたのである。 自分は急き込んで訊いた。 「これは、何処からお買ひになつたのです。」 「いや、買つたのではありません。ある人から貰つたのです。」 大尉の答は、憎々しいほど、落着いてゐた。しかも、その落着の中に、得意の色がアリ/\と見えてゐるではないか。
北区 家庭教師