yakuzaisi
その驚駭噴泉の頂上は、黄銅製のパルナス群像になっていて、水盤の四方に踏み石があり、それに足をかけると、像の頭上からそれぞれの側に、四条の水が高く放出される仕掛になっていた。そして、その放水が、約十秒ほどの間継続することも判明した。ところが、その踏み石の上には、霜溶けの泥が明瞭な靴跡となって残っていて、それによるとレヴェズ氏は、その一つ一つを複雑な経路で辿って行って、しかもそれぞれに、ただの一度しか踏んでいないことが明らかになった。すなわち、最初は本館の方から歩んで来て、一番正面の一つを踏み、それから、次にその向う側を、そして三度目には右側のを、最後には、左側の一つを踏んで終っている。しかし、その複雑きわまる行動の意味が、いったい那辺にあるのか、さすがに法水でさえ、皆目その時は見当がつかなかった。
それから、本館に戻ると、一昨日訊問室に当てた例の開けずの間、すなわちダンネベルグ夫人が死体となっていた室で、まず最初の喚問者として伸子を喚ぶことになった。そして、彼女が来るまでの間に、どこからとなく法水の神経に、後にはそれと頷かせた、異様な予感が触れてきたと云うのは、数十年以来この室に君臨していて、幾度か鎖され開かれ、また、何度か流血の惨事を目撃してきた――あの寝台の方に惹かれていったのだった。彼は帷幕の外から顔を差し入れただけで、思わずハッとして立ち竦んでしまった。前回には些かも覚えなかったところの、不思議な衝動に襲われたからだ。死体が一つなくなっただけで、帷幕で区切られた一劃には、異様な生気が発動している。あるいは、死体がなくなって構図が変ったので、純粋の角と角、線と線との交錯を眺めるために起った、心理上の影響であるかもしれない。
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