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玄関先に立つてゐる、もしくは客間に上り込んでゐる妖艶な夫人の姿を、想像しながら、それに必死に突つかゝつて行く覚悟の臍を固めながら、信一郎は自分の家の門を、潜つた。 見覚えのある運転手と助手とが、玄関に腰を下してゐるのが先づ眼に入つた。信一郎は、彼等を悪魔の手先か何かを見るやうに、憎悪と反感とで睨み付けた。が、夫人の姿は見えなかつた。手早く眼をやつた玄関の敷石の上にも、夫人の履物らしい履物は脱ぎ捨てゝはなかつた。信一郎は、少しは救はれたやうに、ホツとしながら、玄関へ入らうとした。 運転手は素早く彼の姿を見付けた。 「いやあ。お帰りなさいまし。先刻からお待ちしてゐたのです。」 彼は、馴れ/\しげに、話しかけた。信一郎はそれが、可なり不愉快だつた。が、運転手は信一郎を、もつと不愉快にした。彼は、無遠慮に大きい声で、奥の方へ呼びかけた。 「奥さん! やつぱり、お帰りになりましたよ。何処へもお廻りにならないで、直ぐお帰りになるだらうと思つてゐたのです。」 運転手は、いかにも自分の予想が当つたやうに、得意らしく云つた。運転手が、さう云ふのを聴いて、信一郎は冷汗を流した。運転手と妻とが、どんな会話をしたかが、彼には明かに判つた。
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