kawaguchi
厳密な意味では「地方文学」と「地方主義文学」とを区別した方がいゝとは思ふが、さういふ詮議をするのはこの文章の目的ではないから、一応こゝでは、いはゆる「地方主義」の旗印を掲げても掲げなくても、たゞ、日本全国のそれぞれの地域に根をおろし、主調として「地方的」とみられる独自の性格を帯びた文学活動をすべて「地方文学」と呼ぶことにする。 それでは、「地方的」とはいつたい何を指すかといふと、これは、例の「地方文化」などといふ場合にも屡々疑義を生じたことでも明らかなやうに、元来、「地方」といふ言葉には二重の意味があり、「中央」或は「首都」に対して云ふ場合と、単に、ある限られた土地を指す場合とが、おのづから概念としての両端をなすので、この両者が時によると混乱したまゝ用ひられてゐるのである。つまり、「地方色」といふやうな意味の「地方」と、「地方分権」といふやうな意味の「地方」とが、不用意に口にされ、軽率に受けとられるからである。 しかしながら、この両者は常に判然と区別して用ひなければならぬかといふと、必ずしもさうではなく、甲の意味のうちに乙の意味を含めるといふやうな用ひ方が許されないわけではない。さういふ繁雑な用法をひと通り呑み込んだ話のしかたが、お互に必要だといふことを、私は嘗ての乏しい経験から痛切に感じてゐる。
川口駅すぐそば 川口の歯医者 おおむら歯科医院