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しかし、無論、千枝子は叔父の要求をはねつけた。 すると、叔父はますます姉妹に冷淡になり、しまいには、出て行ってくれと言わんばかしの、態度を見せるようになった。叔父ばかりではない、叔母も嫉妬から姉妹に辛く当った。 旧紙幣が新紙幣になってからは、それが一層ひどくなった。 姉妹は毎日、職と家を探して歩いた。そして歩き疲れて帰って来ると、叔父は、今までの生活費を全部入れて貰わねばならぬと、意外な催促だった。 姉妹はもうキャバレエへ行ってダンサーになるよりほかはないと思ったが、近所の人がダンサーになるくらいならと、教えてくれたのは、木屋町のヤトナ倶楽部だった。 千枝子ひとりで出掛けて行ってきくと、前借は五千円、新円で先払い、宴会でお酌をするだけでいい。芸もいらないという。 「ダンサーよりはいいわね」 と、千枝子は帰って、弓子に言った。 「ほんとうにお酌だけでいいの……? いやなことをしなくてもいいの……?」 弓子はちょっと不安になってきいてみたが、 「大丈夫よ、そんな事ないわよ」 千枝子は木屋町松原のヤトナ倶楽部へ住込みで雇われた。 五千円のうち、二千円は衣裳代に取られ、三千円は叔父に渡した。 女学校出の美しいヤトナというので、千枝子はたちまち木屋町で評判になったが、一週間ほどたったある夜、貸席のおかみが、 「千枝子はん、今晩お泊りやすか」 「えっ?」 千枝子にはおかみの言った意味が判らなかった。
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