sonomama
二葉は、そのまゝ、卓子の上に突つ俯してしまふ。
とねが奥から顔を出し、この様子をみてゐる。
とね (やがて)どうしたの、二葉さん。
二葉 ……。
とね あたしに云へないこと?
二葉 ……。
とね あたし、だんだん、あんたのお母さんみたいな気がして来るのよ。可笑しいでせう。でも、ほんとなんだもの。大きな赤ん坊だ、これや……(二葉の肩へ手をかける)
二葉 (肩をゆすぶり)ほうつといて頂戴よ、なんでもないんだから……。
とね 駄々をこねてるわ。
二葉 いゝのよ、なんだつて……。あたし、一人で、少し考へたいことがあるのよ。あつちへ行つて、頂戴……。
とね そんなら、仕方がない……。このおつ母さんは落第だ……。
諦めて、彼女は、奥へはひらうとする。が、この時、二葉は、急に背中を波うたせて、啜り泣きはじめる。
途端に、左手から、州太がはひつて来る。
州太 (この様子を見て)なにをしてるんだ。お前たちは……。つまらん真似をするんぢやない。
とね (心外らしく)あら、そんなことぢやないんですよ。
州太 もういゝ。今日はどういふ日だと思つてる? 土地が始めて売れた日だ。みんなで、祝ひをせえ、祝ひを……。
二葉 (袖で顔を覆ひながら、奥へ走り去らうとする)
州太 待ちなさい、二葉。何処へ行くんだ。
二葉 (州太に背を向けたまゝ立ち去る)
州太 (とねに)おい、麦酒を持つて来い。
とね、奥にはひる。
州太 二葉、そんなことしてないで、こつちを向いて御覧。袖を下へおろしなさい。わしの顔をみて……。お前には、物の道理がわかつてる筈だ。あんな女、何を云つたつて放つとけ。(さう云ひながら、卓子の上の郵便物に一と通り眼を通す)
遠くで雷の音。
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